日本政策金融公庫の融資は、創業予定者や小規模事業者などが、開業資金や運転資金、設備資金を調達する際の選択肢です。
ただし、利用できる制度や金利、返済期間は、事業歴や資金の使い道などによって異なります。また、申込者全員が無担保・無保証人で希望額を借りられるわけではありません。
この記事では、日本政策金融公庫の主な融資制度、創業期の特別な取扱い、審査で確認される内容、申込手順、必要書類を解説します。自社に合う制度を整理し、申込前に準備すべきことを確認しましょう。
※融資制度、金利、必要書類などは変更されることがあるため、申込時点の公式情報をご確認ください。
日本政策金融公庫とは
日本政策金融公庫は、民間金融機関の取組みを補完し、中小企業や小規模事業者、創業者、農林漁業者などを支援する政府系金融機関です。
事業者向けの業務は、主に次の3つに分かれています。
| 事業区分 | 主な対象 |
| 国民生活事業 | 個人事業主、小規模事業者、創業予定者など |
| 中小企業事業 | 中小企業者が必要とする長期資金。比較的規模の大きい融資が中心 |
| 農林水産事業 | 農林漁業者、食品産業の事業者など |
個人事業主、小規模事業者、創業予定者は、国民生活事業の融資が主な選択肢になります。一方、比較的規模の大きい中小企業が多額の長期資金を必要とする場合は、中小企業事業が候補になります。
日本政策金融公庫で利用できる主な融資制度
日本政策金融公庫には、資金の使い道や事業者の状況に応じた複数の融資制度があります。
国民生活事業を利用する事業者が最初に確認したい代表的な制度は、次のとおりです。
| 融資制度 | 主な対象・特徴 |
|---|---|
| 一般貸付 | 幅広い業種の中小企業・小規模事業者が対象 |
| 新規開業・スタートアップ支援資金 | 新たに事業を始める人や、事業開始後おおむね7年以内の人が対象 |
| マル経融資 | 商工会議所や商工会などの経営指導を受け、推薦を得た小規模事業者が対象 |
| 各種特別貸付 | 経営環境の変化、事業承継、海外展開など、制度ごとの要件を満たす事業者が対象 |
制度ごとに、対象者、資金使途、融資限度額、返済期間、金利が異なります。制度名だけで判断せず、必要な資金の種類と現在の事業状況を整理して選ぶことが大切です。
創業前・創業後おおむね7年以内の場合
これから事業を始める人や、事業開始後おおむね7年以内の人は、「新規開業・スタートアップ支援資金」を利用できる可能性があります。
主な内容は次のとおりです。
- 対象者:新たに事業を始める人、または事業開始後おおむね7年以内の人
- 融資限度額:7,200万円
- 設備資金の返済期間:20年以内
- 運転資金の返済期間:10年以内
- 据置期間:設備資金、運転資金ともに5年以内
据置期間とは、原則として元金の返済を行わず、利息を支払う期間です。創業直後の売上が安定しない時期の負担を抑えられますが、その分だけ返済期間や利息総額への影響も考える必要があります。
なお、新たに事業を始める人、または事業開始後に税務申告を2期終えていない人は、創業期の取扱いとして、原則無担保・無保証人で各種融資制度を利用できます。
また、原則として各融資制度に定める利率から年0.65%、雇用の拡大を図る場合は年0.9%引き下げられます。ただし、融資の可否や融資額は審査によって決まります。
「新規開業・スタートアップ支援資金」の対象期間と、創業期の無担保・無保証人や利率引下げが適用される期間は同じではありません。
新規開業・スタートアップ支援資金は、事業開始後おおむね7年以内の人が対象です。一方、創業期の特別な取扱いは、新たに事業を始める人、または税務申告を2期終えていない人が対象となります。
事業実績がある場合
すでに事業を営んでいる事業者が通常の運転資金や設備資金を必要とする場合は、一般貸付が選択肢になります。
一般貸付の返済期間は次のとおりです。
- 運転資金:5年以内。特に必要な場合は7年以内。うち据置期間1年以内
- 設備資金:10年以内。うち据置期間2年以内
- 特定設備資金:20年以内。うち据置期間2年以内
運転資金には、仕入代金、人件費、家賃、広告費など、事業を継続するための支出が含まれます。設備資金は、店舗や事務所の改装、機械、車両、事業用機器などの購入に充てる資金です。
融資を申し込む際は、必要な金額だけでなく、資金の使い道を具体的に説明できるようにしておく必要があります。
商工会議所や商工会の支援を受けている場合
小規模事業者は、一定の要件を満たせば「マル経融資」を利用できる可能性があります。
マル経融資は、小規模事業者経営改善資金の通称です。商工会議所や商工会などの経営指導を受け、推薦を得た事業者が利用できます。
主な内容は次のとおりです。
- 融資限度額:2,000万円
- 返済期間:10年以内
- 据置期間:2年以内
- 担保・保証人:原則不要
日本政策金融公庫へ直接申し込む一般的な融資とは異なり、商工会議所や商工会などによる経営指導と推薦が必要です。利用を検討する場合は、事業所の所在地を管轄する商工会議所や商工会へ相談します。
日本政策金融公庫の融資限度額と金利
融資限度額は、制度上申し込める上限です。限度額まで必ず借りられるわけではなく、実際の融資額は資金の必要性、返済能力、事業計画などを踏まえた審査によって決まります。
金利も、利用する制度、担保の有無、事業歴、返済期間などによって異なります。
2026年7月1日現在、国民生活事業の主な基準利率は次のとおりです。
| 利用区分 | 基準利率 |
|---|---|
| 無担保で利用し、税務申告を2期終えている人 | 年3.50~5.20% |
| 無担保で利用し、税務申告を2期終えていない人 | 年3.45~5.15% |
| 有担保で利用する人 | 年2.50~4.80% |
表の利率は基準利率であり、すべての申込者に同じ利率が適用されるわけではありません。特別利率が適用される制度もあるため、実際の金利は申込時点で確認する必要があります。
なお、創業期の人には、原則として各融資制度に定める利率から年0.65%を引き下げる「創業支援貸付利率特例制度」があります。雇用の拡大を図る場合の引下げ幅は、原則年0.9%です。
自己資金はいくら必要か
現在の「新規開業・スタートアップ支援資金」の公式な制度概要では、自己資金について「必ず必要資金の○割以上」という一律の割合は示されていません。
ただし、これは自己資金がなくても審査上問題にならないという意味ではありません。
自己資金には、事業者が創業に向けてどの程度準備してきたかを示す面があります。また、借入額を抑えれば、開業後の返済負担も軽くなります。
創業融資を申し込む場合は、自己資金の金額だけでなく、どのように蓄えた資金なのかを説明できるようにします。通帳などで資金の蓄積過程を確認できる状態にしておくことも大切です。
第三者から一時的に借りた資金を自己資金のように見せても、入出金履歴などから資金の経緯を確認されることがあります。資金の出所は正確に説明しましょう。
日本政策金融公庫の融資を利用するメリット
日本政策金融公庫の融資には、民間金融機関からの借入れとは異なる特徴があります。
創業前でも申し込める
新たに事業を始める人を対象とした制度があるため、創業前でも申込みが可能です。
民間金融機関では、事業実績がないことを理由に融資を受けにくい場合があります。日本政策金融公庫では、創業計画、経験、自己資金、収支見込みなどを踏まえて審査が行われます。
創業期は原則無担保・無保証人で利用できる
新たに事業を始める人、または事業開始後に税務申告を2期終えていない人は、創業期の取扱いとして、原則無担保・無保証人で各種融資制度を利用できます。
法人が融資を受ける場合も、一定の創業期に該当すれば、原則として代表者個人の保証を求めない取扱いになります。
ただし、無担保・無保証人であることと、無条件で融資を受けられることは別です。事業計画や返済可能性などについて審査が行われ、希望額から減額される場合や、融資を受けられない場合もあります。
返済期間を比較的長く設定できる制度がある
設備資金や創業時の資金について、比較的長い返済期間が設定された制度があります。
返済期間を長くすると毎月の返済額を抑えやすくなりますが、一般的には支払う利息の総額が増えます。毎月の資金繰りだけでなく、利息を含めた総返済額も確認して返済期間を決める必要があります。
日本政策金融公庫の融資を利用する際の注意点
制度の対象者に該当していても、申込みによって必ず融資を受けられるわけではありません。
審査がある
審査では、資金の使い道、事業計画、返済可能性、申込者の経験、自己資金、既存借入れなどが総合的に確認されます。
希望する融資額が事業規模や資金使途に対して過大な場合や、売上計画の根拠が不明確な場合は、希望額どおりにならないことがあります。
資本金や増資のための資金には利用できない
日本政策金融公庫の融資は、会社設立時の資本金や増資のための出資金として利用することはできません。
会社設立前に創業融資を検討する場合も、資本金と借入金を区別して資金計画を立てる必要があります。
融資制度や金利は変更されることがある
融資制度の名称、対象者、金利、返済期間などは、制度改正や金利情勢によって変更される場合があります。
過去に利用されていた「新創業融資制度」などの名称が、現在の記事や資料に残っていることもあります。古い情報だけで判断せず、申込時点の制度を確認してください。
融資審査で確認される主なポイント
日本政策金融公庫は、融資の審査基準を単純な点数表として公表しているわけではありません。申込者は、借りた資金を事業に使い、計画どおり返済できることを具体的に説明する必要があります。
資金の使い道が明確か
必要な資金の金額は、できるだけ具体的に積み上げます。
設備資金であれば、店舗の改装費、機械、什器、車両などの見積書を用意します。運転資金であれば、仕入れ、人件費、家賃、広告費など、何か月分の資金が必要なのかを整理します。
「余裕を持つため」といった説明だけでは、必要額の妥当性が伝わりにくくなります。
売上予測に根拠があるか
創業計画書や事業計画書に記載する売上予測は、希望的な数字だけで作らないようにします。
例えば、次のように計算根拠を分けると説明しやすくなります。
- 店舗:客単価×1日当たりの来店客数×営業日数
- サービス業:契約単価×顧客数
- 製造業:販売単価×販売数量
- オンライン事業:アクセス数×購入率×平均購入単価
既存事業者の場合は、過去の実績、既存顧客からの受注見込み、季節変動なども考慮します。
返済可能な計画か
借入金の返済は、原則として事業から生じる利益やキャッシュフローから行います。
売上が計画を下回った場合でも返済を続けられるか、税金や社会保険料などの支払い後に資金が残るかを確認しましょう。
個人事業主の場合は、事業上の支出だけでなく、生活費も含めて資金繰りを考える必要があります。
申込者に事業経験や準備があるか
創業融資では、これから始める事業に関連する経験や資格、取引先、仕入先、販売方法などが確認されます。
未経験の分野で創業することだけを理由に融資を受けられないとは限りません。ただし、経験不足を補う準備や協力者、具体的な運営方法を説明できるようにしておく必要があります。
既存借入れや支払い状況に問題がないか
住宅ローン、自動車ローン、カードローンなどの借入状況は、毎月の返済能力に影響します。
税金、公共料金、既存の借入金などに支払いの遅れがある場合も、審査に影響することがあります。申込時に事実と異なる説明をせず、現在の状況と今後の対応を整理して伝えることが大切です。
日本政策金融公庫へ融資を申し込む流れ
国民生活事業の融資は、おおむね次の手順で進みます。
- 申込前の準備
- 融資の申込み
- 担当者との面談
- 審査
- 契約手続き
- 指定口座への送金
インターネット申込は、24時間365日受け付けられています。
申込み後には担当者との面談が行われ、事業内容、資金の使い道、売上見込み、返済計画などについて確認されます。必要に応じて、店舗や事業所を訪問して事業の状況を確認する場合もあります。
審査結果の連絡を受け、融資が決定した場合は契約手続きへ進みます。契約完了後、指定した金融機関の口座へ融資金が送金されます。
融資決定までにかかる期間
日本政策金融公庫の公式FAQでは、申込みから融資決定までの平均所要日数は、土日・祝日を含めて2~3週間程度とされています。
ただし、これは平均的な目安です。申込内容、必要書類の不足、追加確認の有無などによって期間は変わります。
また、2~3週間で必ず入金されるという意味ではありません。融資決定後に契約手続きがあり、その後に送金されます。
支払期限が決まっている設備資金や開業資金を申し込む場合は、余裕を持って準備を始めましょう。
融資申込時の必要書類
必要書類は、個人事業主か法人か、創業前か事業実績があるか、資金の使い道などによって異なります。
主な書類は次のとおりです。
| 書類 | 主な対象・注意点 |
| 創業計画書または企業概要書 | 創業予定者や事業内容を確認する必要がある場合 |
| 確定申告書 | 個人事業主は原則として最近2期分 |
| 決算書 | 法人は原則として最近2期分 |
| 試算表 | 法人で決算後6か月以上経過している場合など |
| 見積書 | 設備資金を申し込む場合 |
| 履歴事項全部証明書 | 法人の場合。原則として最近6か月以内に発行されたもの |
| 本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど |
| 許認可証 | 許認可が必要な事業で、すでに取得している場合など |
確定申告を1期しか終えていない場合は、原則として1期分の申告書類を提出します。税務申告をまだ終えていない場合は、申告書の提出は不要です。
許認可を今後取得する予定で、申込時点では取得していない場合、申込時に許認可証を提出する必要はありません。ただし、営業開始までに必要な許認可を取得できる計画になっているかは確認しておきましょう。
必要書類は申込内容によって追加される場合があります。申込前に最新の案内を確認してください。
面談前に準備しておきたいこと
面談では、提出した書類の内容を申込者自身の言葉で説明できることが大切です。
特に、次の項目を整理しておきましょう。
- 事業を始める理由
- これまでの経験や強み
- 商品やサービスの内容
- 販売先と集客方法
- 売上と経費の計算根拠
- 必要な資金の内訳
- 自己資金の蓄積過程
- 借入金の返済方法
- 既存の借入状況
- 計画を下回った場合の対応
事業計画書に記載した数字を暗記する必要はありません。ただし、数字の根拠を質問されたときに、資料を見ながら説明できる状態にしておく必要があります。
融資後の返済方法
返済は原則として月賦払いです。
返済方法には、元金均等返済、元利均等返済、ステップ返済などがあります。利用できる返済方法は制度や契約内容によって異なるため、申込時または契約時に確認します。
返済途中でも、事業拡大や追加の運転資金が必要になった場合は、追加融資を申し込めます。既存の借入れが残っているだけで追加申込みが禁止されるわけではありません。
ただし、追加融資でも審査が行われます。既存融資の返済状況、直近の業績、新たな資金の必要性などが確認されます。
日本政策金融公庫の融資が向いている事業者
日本政策金融公庫の融資は、特に次のような事業者に向いています。
- これから事業を始める人
- 創業して間もなく、事業実績が少ない人
- 店舗や機械などの設備資金が必要な人
- 仕入れ、人件費、家賃などの運転資金が必要な人
- 商工会議所や商工会の経営指導を受けている小規模事業者
- 民間金融機関からの借入れとあわせて資金調達を検討している人
一方、資本金や増資のための出資金を調達したい場合は、融資の対象になりません。また、返済原資を説明できない場合や、資金の使い道が曖昧な場合は、申込前に事業計画を見直す必要があります。
よくある質問
日本政策金融公庫の融資は誰でも申し込めますか
制度ごとの対象要件を満たせば申込みはできますが、融資を受けられることが保証されるわけではありません。資金使途、返済可能性、事業計画などについて審査が行われます。
創業前でも融資を受けられますか
新たに事業を始める人を対象とした融資制度があるため、創業前でも申込みが可能です。創業計画書、自己資金を確認できる資料、設備の見積書などを準備します。
創業融資は必ず無担保・無保証人ですか
新たに事業を始める人、または事業開始後に税務申告を2期終えていない人は、原則無担保・無保証人で利用できます。ただし、融資の可否や融資額は審査によって決まります。
自己資金がなくても申し込めますか
現在の新規開業・スタートアップ支援資金には、一律の自己資金割合は示されていません。ただし、自己資金の有無や蓄積過程は、創業準備や返済負担を確認する材料になります。
審査に落ちたら半年待たなければ再申請できませんか
「審査に落ちたら必ず半年待つ」という一律の公式ルールは示されていません。ただし、否決の原因を改善しないまま再申請しても、審査結果が変わらない可能性があります。
返済途中でも追加融資を申し込めますか
返済途中でも追加融資を申し込めます。限度額の範囲内で複数の制度を組み合わせられる場合もありますが、既存融資の返済状況や追加資金の必要性について改めて審査されます。
申込みから入金まで何日かかりますか
融資決定までの平均所要日数は、土日・祝日を含めて2~3週間程度です。その後に契約手続きと送金があるため、申込みから入金までの期間には余裕を持つ必要があります。
まとめ
日本政策金融公庫には、創業予定者や小規模事業者などを対象とした複数の融資制度があります。
創業前または事業開始後おおむね7年以内であれば、新規開業・スタートアップ支援資金が選択肢になります。このうち、新たに事業を始める人や税務申告を2期終えていない人は、原則無担保・無保証人で、所定の利率引下げを利用できます。
ただし、制度上の限度額まで必ず借りられるわけではありません。資金の使い道、売上計画、自己資金、返済可能性などを具体的に整理し、必要書類をそろえて申し込む必要があります。
まずは必要な資金を運転資金と設備資金に分け、金額の根拠と返済計画を整理したうえで、利用できる融資制度を確認しましょう。
