事業が軌道に乗り利益が増えてくると、毎年の確定申告で支払う税金の高さに驚く方は少なくありません。売上は上がっているのに、税金を払うと手元に現金が残らないという悩みを抱えている経営者は非常に多いのが実情です。
この記事では、税理士および公認会計士としての長年の実務経験に基づき、会社設立によってどのような節税が可能になるのか、また失敗しないためのタイミングや注意点についてわかりやすく解説します。この記事を最後までお読みいただければ、ご自身の状況において会社設立に踏み切るべきかどうかの正しい判断基準が明確になります。
会社設立で節税できる最大の理由は税率と経費範囲の違いです
会社設立によって節税が実現できる根本的な理由は、個人と法人で適用される税率の仕組みが大きく異なることと、税務上経費として認められる範囲が大きく広がるためです。
所得税と法人税の税率差を利用して税負担を軽減できます
個人の所得税が累進課税制度をとっているのに対し、法人の実効税率は一定の割合に抑えられているため、利益が大きくなるほど法人が有利になります。
個人の場合、所得が増えれば増えるほど税率が上がり、住民税と合わせると最大で約55パーセントもの税金が課せられます。一方で法人税等は、利益の額にもよりますが、実効税率はおおむね20パーセント台から30パーセント台の範囲に収まります。この税率の逆転現象が起きる分岐点を見極めることが節税の第一歩です。
| 課税される主体 | 適用される税金の種類 | 税率の仕組み | 最高税率の目安 |
|---|---|---|---|
| 個人事業主 | 所得税・住民税 | 累進課税(利益に応じて上がる) | 約55パーセント |
| 法人(会社) | 法人税・法人住民税など | 比例税率・軽減税率の適用 | 約30パーセント台 |
個人事業主よりも経費として認められる範囲が広くなります
会社を設立すると、個人事業主では認められなかった支出が法人の経費として計上できるようになります。
事業主自身への給与や退職金、出張時の日当、さらには生命保険料の一部など、会社のお金を合法的に経費として処理しながら個人に移転する手法が使えるようになります。私の経験では、単なる税率差よりも、この経費枠の拡大による節税効果をより強く実感される経営者の方が多くいらっしゃいます。
会社設立で得られる具体的な7つの節税メリットを解説します
法人化することで、役員報酬の活用や消費税の免除など、手元に資金を残すための多様な選択肢が生まれます。ここでは実務上で特に効果が高い7つのメリットを紹介します。
1. 役員報酬を支給して給与所得控除を活用できます
個人事業主の利益はそのまま事業所得として課税されますが、会社設立後は社長自身に役員報酬を支給することができます。役員報酬は給与として扱われるため、個人の税金計算において一定額を所得から差し引ける給与所得控除が適用されます。これにより、法人側の経費を増やしつつ、個人側の税負担も軽くするという二重のメリットが得られます。
2. 家族を役員にして所得を分散できます
配偶者や親族を会社の役員や従業員にすることで、会社から給与を支払い、世帯全体の所得を分散させることができます。日本の所得税は一人あたりの所得が高いほど税率が上がるため、所得を家族に分散することで一人あたりの適用税率を下げ、一族全体で納める税金の総額を減らすことが可能です。
3. 欠損金(赤字)を最長10年間繰越控除できます
青色申告を行っている法人は、その年に生じた赤字を翌年以降、最長10年間にわたって黒字と相殺することができます。個人事業主の場合は最長3年間しか繰り越せないため、大きな設備投資を行った直後や、一時的な不況で赤字が出た場合のリカバリー能力は法人のほうが圧倒的に優れています。
4. 退職金を支給して退職所得控除を活用できます
会社設立をすると、経営者自身に対して将来退職金を支給することができます。退職金には退職所得控除という非常に優遇された税制が用意されており、受け取った金額にかかる税金が給与所得などに比べて大幅に安くなります。長年の顧問先の事例を見ても、引退時の資金形成としてこれほど強力な節税策は他にありません。
5. 資本金1000万円未満なら消費税が最大2年間免除されます
新たに設立した会社で資本金が1000万円未満の場合、原則として設立から最大2事業年度にわたって消費税の納税義務が免除されます。売上にかかる消費税をそのまま会社の利益として残せるため、創業期の厳しい資金繰りにおいて非常に大きな恩恵となります。ただし、特定期間の売上高や給与支払額による複雑な判定があるため、設立時期の調整には専門家の助言が不可欠です。
6. 出張手当(日当)を経費に計上して非課税で受け取れます
出張旅費規程を作成することで、経営者や従業員の出張に対して日当を支給することができます。法人はこの日当を経費として計上できるうえに、受け取った個人側では所得税や住民税が非課税となるため、社会保険料の対象にもならず、手取り額を増やす有効な手段となります。
7. 自宅を社宅扱いにして家賃の大部分を経費化できます
会社が不動産を借り上げ、それを役員に社宅として貸し出す制度を利用できます。役員から一定の家賃相当額を徴収すれば、実際の家賃との差額を会社の経費として処理できるため、個人で家賃を全額支払うよりも大幅な節税につながります。
会社設立による節税効果を最大化するためのタイミングと目安を解説します
会社設立を検討すべき最適なタイミングは、個人の課税所得が500万円から800万円を超えた時点です。
年間の事業所得が500万円から800万円を超えたときが目安です
個人の所得税率が法人税の実効税率を上回り始めるのが、課税所得ベースで500万円から800万円のラインだからです。
売上から経費や各種控除を差し引いた利益がこの水準に達すると、法人化による節税メリットが、後述する会社設立のデメリットや維持費用を上回るようになります。私の経験上、売上でいうと1000万円を超えたあたりで一度税理士にシミュレーションを依頼するのが最も確実な手順です。
| 個人の課税所得水準 | 所得税・住民税の合計税率目安 | 法人化の推奨度 |
|---|---|---|
| 300万円以下 | 約20パーセント | おすすめしない(個人事業主が有利) |
| 500万円前後 | 約30パーセント | シミュレーション推奨(法人化の検討開始) |
| 800万円以上 | 約33パーセントから43パーセント | 法人化を強く推奨(法人が圧倒的に有利) |
会社設立前に知っておくべきデメリットと注意点です
法人化には節税効果がある一方で、赤字でも発生する税金や社会保険料の負担増といった注意点が存在します。メリットだけを見て安易に会社を設立すると、資金繰りが悪化する危険性があります。
赤字でも毎年最低7万円の法人住民税均等割が発生します
法人を設立すると、たとえ会社の業績が赤字であっても、法人住民税の均等割として毎年最低でも約7万円を納付する義務が生じます。
個人事業主であれば赤字の年に所得税や住民税はかかりませんが、法人の場合は事業を存続しているだけで固定の税負担が発生します。このランニングコストの存在を忘れてはいけません。
設立費用や社会保険料などの固定費が増加します
会社を立ち上げるための初期費用がかかるうえに、社会保険への加入が義務付けられるため、毎月の固定費が跳ね上がります。
株式会社を設立する場合は定款認証や登録免許税などで約25万円、合同会社でも約10万円の費用が必要です。また、役員一人の会社であっても厚生年金と健康保険への加入が強制となり、保険料の半額を会社が負担しなければなりません。税金は減ったが社会保険料が増えて手元資金が枯渇した、という失敗事例は実務上頻繁に目にするため、事前の綿密な資金計画が求められます。
よくある質問
会社設立と節税に関して、実務上よくご相談いただく疑問とその回答をまとめました。
設立にかかる実費は、株式会社で約25万円、合同会社で約6万円から10万円程度です。
これに加えて、司法書士などの専門家に手続きを依頼する場合は数万円の報酬が上乗せされます。ただし、電子定款を利用することで印紙代の4万円を節約できるため、専門家に依頼した方がトータルコストが変わらず、手間だけを削減できるケースがほとんどです。
節税効果という観点においては、株式会社と合同会社で税制上の違いは一切ありません。
適用される法人税の税率や、経費にできる範囲、役員報酬のルールなどは両者で完全に共通しています。設立費用を安く抑えたい場合は合同会社を、社会的な信用度や将来的な資金調達を重視する場合は株式会社を選ぶのが定石です。
節税だけを目的とした法人化は、維持費や手間を考慮するとかえって損をするリスクがあります。
会社を設立すると、社会保険料の負担増だけでなく、複雑な決算業務を行うための税理士への顧問料が年間数十万円単位で発生します。これらを差し引いても手元に資金が多く残るのか、長期的な事業計画に基づいたシミュレーションを行うことが不可欠です。
副業の事業所得が年間500万円を超えている場合は、サラリーマンでも会社設立による節税効果が見込めます。
本業の給与所得と副業の所得を分離することで、個人の累進課税による税率アップを防ぐことができます。ただし、勤め先の就業規則で副業や会社役員への就任が禁止されていないか、必ず事前に確認しておく必要があります。
まとめ
会社設立による節税は、自社の利益水準と事業計画に合わせて最適なタイミングで実行することが成功の鍵です。
個人と法人の税率差を利用し、役員報酬や出張規程、家族への所得分散を正しく活用することで、数百万単位で手元に残る資金が変わってきます。しかし、社会保険料の増加や赤字でもかかる均等割といったデメリットも同時に理解しておく必要があります。ご自身の現在の利益水準で会社設立が本当に有利になるのかどうか、まずは一度、実績のある税理士や公認会計士の無料相談を活用し、詳細なシミュレーションを実施してみることを強くお勧めします。お手続きに不安がある方は、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。
